キウイの朝オレンジの夜


 食事はあらかた平らげたし、半分くらいの職員は宴会場から出てしまっていた。もう時間は9時半過ぎだ。

 これからまたお風呂に入るベテランさんや、ゲームに白熱する人もいるんだろう。

 あたしは折角なので、この豪勢な旅館の日本庭園でも散歩に行こうかな、と思っていた。さっきトイレに行く途中で見たら、ライトアップされていて綺麗だった。

 会場を出て、暑いからと脱いでいた半天を羽織る。

 ううう~・・・やっぱ、ちょっと飲みすぎたかも・・・。でもいい気持ち~・・・。

 久しぶりに大いに騒げて気分は良かった。

 うふふふ~と一人で笑いながら、庭の方へ向けて歩き出す。

 3月と言ったって雪も降るような気温なのだ。出れば頭もちょっとはハッキリするかも~、とあたしは庭へ通じる通路へ出た。

 途端に冷たい風が顔に正面から当たり、あたしは目を細める。

「・・・うわあ~・・・寒い・・・」

 口から吐く息は白く、真っ暗な天に昇っていく。そのまま見上げるといくつか星も見える。

 あたしは真上を向いたままで、しばらくその黒い世界に見惚れていた。

「・・・綺麗」

 それから転ばないように注意して、ゆっくりと庭への飛び石の上を歩く。

 旅館の下駄がカラコロと鳴った。


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