キウイの朝オレンジの夜
丁寧に手入れされた植物と石で作られた広い庭を、一人で歩いた。寒くて他には誰もおらず、旅館からは笑い声が聞こえてきてはいたけど遠くてぼやけている。
あたしは楽しい気分になって、冷たい石のベンチに座った。
浴衣の裾から冷気が忍び込んでくる。
オレンジの照明に照らされた日本庭園と、豪華な旅館。遠くから笑い声。ふんわりと幸せな気持ちになる。
暗くて寒い夜、知らない場所に一人でいるのに、この世界は確かにあたしを受け入れてくれている、そんな風に思えて、何だか力が沸いてくる感じだった。
あまり冷えて風邪を引くとあとが大変だし、と思って、5分ほど一人の世界を堪能してから腰を上げた。
またカラコロと音を立てて旅館に戻る。
ああ、ちょっと冷えたなあ~でもお酒も入ってるし、大丈夫か~、とつらつら考えながら出てきた廊下目指して歩いていると、聞き覚えのある声がいきなり近くからして飛び上がって驚いた。
「神野」
「うひゃあ!?」
パッと横を向くと、あたしが出てきた廊下のガラス戸にもたれ掛かって、稲葉さんが立っていた。
「・・しっ・・・支部長」
館内の照明で顔半分だけを照らして、稲葉さんは優しい笑顔だった。その長身の影を見て、あたしはほんわかと温かくなった。お酒の力を借りて、大して緊張もせずににっこりと笑う。