キウイの朝オレンジの夜
「この寒いのに散歩か?風邪ひくぞ」
あたしは足を前に出す。右、左、右、左・・・。体の奥底から湧き上がってくる喜びに頬が緩んでしまう。夜空と星の影響か、いつになく感情に素直な自分がいた。
何とか館内にたどり着いて、温かい空気の中に飛び込む。
・・・あったか~い・・・。
あたしが入ってからガラス戸を閉めた稲葉さんを見上げる。
「・・・支部長、ここで何してるんですか?」
うん?とあたしを見下ろして、稲葉さんは目元を擦る。
「ちょっと逃げてきた。長嶺が絡むし、色んなところから来るお誘いとやっかみが鬱陶しくて・・・」
卓球を皆見ていたので、また試合しますから来てください、とか、カラオケしましょう、とか、誘われたらしい。そして酔っ払ったオジサン連中にやっかみ半分のからかいを受けた模様だ。
どこに居ても注目の的、だもんね・・・。
あたしはちょっと面白くなくて、ぶーたれて言う。
「モテモテですね、支部長」
稲葉さんは目元を擦っていた手でそのまま前髪をかき上げて、目を細めて笑った。
「色物なんだよな、俺は。酒のアテだ、言ってみれば」