キウイの朝オレンジの夜
自己紹介のあとは事務からの連絡事項を伝えさせて、朝礼を10分で彼はまとめあげた。
「私が慣れるまでは色々と不便をおかけすると思いますが、皆さんはいつも通りご自分のペースでお願いします。では、行ってらっしゃい!」
全員が立ち上がって「行ってきます」と返す。これで、支部の一日は始まる。
ざわざわと騒がしくなった事務所の中で新支部長は早速副支部長を捕まえてこの支部の状況の把握に乗り出したようだった。
あたしは決心する。
今日は、一日外回りで埋め尽くしてやる。入っているアポは3件、その準備は昨日完了させている。
乾きつつはあるがやはり一度全身びしょ濡れになっているので匂いもあるし不快だから、今から一度家に戻って着替えて―――――と算段しながら鞄を手に立ち上がると、玉ちゃん、と副支部長に呼び止められた。
「・・・はい」
振り返ると支部長席で、上司二人が手招きをしている。
・・・・・遅かった、逃げ出すの・・・・。
仕方なくとぼとぼと支部長席に向かう。朝一のアポが入っている営業はどんどん出て行って、事務所が段々空いてくる中、あたしはため息をつきながら副支部長が立って空けた椅子に腰掛けた。
残っている人たちの視線を、またまた一斉に背中に感じる。
「久しぶりだね、神野さん」
目の前で、ニコニコと愛嬌を振りまきながら元スーパー営業が笑っている。
あたしは覚悟を決めた。ゆるゆると顔に微笑を貼り付ける。
「・・・お久しぶりです。稲葉さん・・・あ、支部長」