キウイの朝オレンジの夜
「・・・浴衣、ちゃんと着直してくれる?微妙な崩れ方がやばい。我慢出来そうにないから」
「あ?は、はい!」
慌ててしっかりと襟元を直し、帯をきつく締める。
下ろしている前髪の間からちらりと見て、嫌そうな声で言った。
「―――――――よく考えたら、ここで抱くわけにはいかねえよな。いくら一人部屋でもな。持ってないしな」
最後の言葉でまた眩暈に襲われた。・・・稲葉さん、あたしを抱こうって本気で考えてたんだあああ~・・・あたしの世界は回りだす。
「・・・し、支部長・・・」
「こういう時に役職名やめてくれ」
「・・・稲葉、さん」
うん?と綺麗に笑って首をかしげ、あたしを見る。だけどピンクの世界で一人絶賛混乱中のあたしは何を言っていいのかが判らない。
俯いて黙っていたら、のんびりとした声が聞こえた。
「研修時代から、お前はお気に入りだった。必死ぶりがツボだったというか。・・・だけど彼氏がいるのを知っていたし、研修中の女性営業に言い寄るわけにもいかないだろ」
ひょえええ~!!あたしは頭の中で絶叫した。・・・嘘でしょ!?毎日毎日あんなにスパルタやっといて、例えばいきなり告白されたとしても素直に受け取れるわけないじゃないのよ!!
地獄の研修時代を思い出しかけて、慌てて記憶を押さえ込む。ダメダメダメ!今あたしは人生で最大くらいの山場にいるのに、地獄を思い出してどうする。