キウイの朝オレンジの夜
都心の大きな支社で、彼は有名だった。エリート街道まっしぐらの男性社員ばかりが集められた男性オンリーの営業部がいくつかあり、その中央営業部に居た為に現役で営業をしていた頃の彼の呼び名は「中央の稲葉」。
明るいキャラと整った甘え顔が女子社員の人気を集め、他に北営業部と南営業部のイケメン営業と並んで毎日のように噂されていたのだった。
愛嬌たっぷり、成績優秀、昔の3高(身長、学歴、収入)を地でいく男。
ただし――――――――
あたしは引きつらないように努力しながら、何とか声を押し出した。
「鬼教官が自分の支部長になるとは、まさか、でした」
彼はあはははと声に出して笑う。
「ひっさしぶりに聞いたな~、その呼び方。これでも俺もちょっとは丸くなったんだよ」
・・・それは間違いなく朗報です。あたしは小さく小さく呟いた。誰にも聞こえない声で。
23歳の時だ。あたしは支社の研修で、本社での2年間の人材育成研修への機会を与えられた。
他数名の同期と一緒に参加し、2年間、都心でみっちり教育されたわけだが、その時の営業研修で、「中央の稲葉」が担当教官をしたのだった。