キウイの朝オレンジの夜
ビルの入口近くに真っ直ぐ立って、稲葉さんがこっちを見ているのに気付いた。
――――――わお。夢の王子様、発見。
あたしは無意識に口元を撫でる。・・・涎のあと、ちゃんと消えてるよね?
菜々は急いで首を縦に振り出した。
「稲葉支部長!!あ、はいはい、勿論です。あたしのものじゃないし、もう返却しなくていいですから」
いいながらあたしの背中をぐいぐいと稲葉さんのほうへ押す。
「いたっ・・・こら、菜々!」
「じゃ、あたし帰る。また優績者研修でね、玉!」
そしてあたしの耳に口を近づけて、ぼそっと言った。
「何が起こったかは全部教えてね!」
あたしが呆れて彼女をみると、お持ち帰りじゃん、あんた!と小声で言って楽しそうに笑った。ばいばい、と大きな声で言って後ろに下がる。
あたしは、もう!と手を振って彼女を追い払い、緊張して稲葉さんを振り返った。
稲葉さんはあたしを柔らかく見下ろし、綺麗な笑顔で言った。
「大石さんは、正しい」
「は?」
一歩であたしに近づいて、瞳を煌かせて言う。
「お前は俺にお持ち帰り、されるんだ」
・・・・聞こえてたのか!恐るべき地獄耳だ。
こいよ、と促されて、まだ寝起きのあたしはふらふらと彼についていく。