キウイの朝オレンジの夜
にこにこと笑いながら、支部長になった稲葉さんは事務に出して貰ったらしいあたしの個人成績表をめくっている。
ちらりと見ると、事務員の横田さんは顔を赤らめてぼーっと支部長の後姿を眺めていた。
・・・だーめだ、ありゃ。稲葉さんの言う事なら何でも聞きます状態になっちゃってるや・・・。
「いい成績だね。俺の教えたことをちゃんと実行しているようだな。安心したよ」
言葉使いを変えて親密さを出す。これも、彼の常套手段なのをあたしは忘れていない。
お客様の心に入り込むんだ―――――――受け入れて貰って初めて仕事にうつれる・・・教官時代の彼の台詞が頭の中に浮かび上がる。
『そして、目的を果たせ』。
ぱさりと成績表をおいて、彼の垂れ目があたしを捉えた。
「――――――件数は取れている。だが、Sの小さなものが目立つな。今日のアポは?」
来た!あたしは緊張した。ごくりと唾を飲み込んで、そろそろと答える。
「・・・3件です」
「Sは?」
「・・・550万、1200万、210万」
彼は、ふっくらとした唇を横に引いて輝くような笑顔を浮かべた。
「S4500万のアポを6件。それが今日の目標。以上だ、神野さん、行ってらっしゃい」