キウイの朝オレンジの夜
梅沢さんは明るく笑って足を止めないままであたしに言った。
「久しぶりね~!前の設計でいいわ。あれで契約するからまた明日の午前中に電話頂戴~」
言いながらヒールを鳴らして歩いて、そのままドアの向こうへ消えた。
あたしは呆気に取られてそれを見送ったんだった。
こんな風に契約を貰ったのは久しぶりだ。
あなただから、契約する、というパターンは。
梅沢さんはやっぱり真っ黒衣装のバーテンダーさんにジン・トニックを作って貰って、本腰いれてあたしの説明に聞き入った。
にっこりと笑う。
「はい、それでいいわ。契約の乗り換えは基本的には不利だってあなたが教えてくれたけど、こっちに乗り換えます」
「ありがとうございます」
あたしは深深と頭を下げる。
感動した。何ていい出会いだったんだろう!あの会社に飛び込んで、あたし大正解・・・。そういえば、そのお陰で噂の楠本FPにも会えたんだったし。
楽しく飲んで語らい、梅沢さんの彼氏の話も聞いて盛り上がった。そして久しぶりに終電で帰った。
ケータイの留守電にちょっと拗ねたような稲葉さんからの伝言が入っていたけど、契約貰ったんだから許して貰おう。
丁寧に化粧を落としてお風呂に入る。
外は春の強い風が吹いているらしい。だけどあたしは温かいお風呂に浸かり、守られていた。結界の中でぬくぬくと揺られていた。
あたしはこの時知らなかった。
大切なお客様が、その強い風の夜に、永眠されたってことを。