キウイの朝オレンジの夜
山下のおじいちゃんとあたしが呼んでいたその男性は、あたしが一般支部へ移籍してきて、初めてまともに喋ったこの地域の契約者様だった。
一般家庭への訪問に慣れてないあたしは、最初の2週間で一般家庭でのコンタクト取りの壁の高さと冷たい仕打ちとに打ち負かされていた。
生保の営業に対する風辺りは強いものだ。
営業5年目でそれは十分に判ってはいたけれど、様々な営業が飛び込みしてくるのが当たり前の会社で働く人々と、家を守って過ごす主婦の皆さんとはその対応が明らかに違うのだ。
インターフォンを押して、名乗ると同時に切られるってのは、まず普通。
最近のインターフォンにはカメラがついていて、服装で営業だとわかると出てくれすらしないのも、まだマシ。
酷い対応になると、あからさまに不機嫌な声で、まだこちらが何も言わないうちから「いらないって言ってるでしょ!!」と怒鳴られたり、「そんな仕事して恥かしくないの?あなた大学は出てるの?どこの大学?」などと言われたりする。
それ以上になると、水を掛けられたり舌打ち&物投げをされたりだってするのだ。
でも、そんな人たちも、うちの会社の契約を持っている。・・・・じゃあ何で保険に入ったのよ?と思う。フォローの担当になったと挨拶に来た営業に辛く当たって、一体何が得られるというのだろう。怪我や病気をした時に彼等が連絡する最初の人間はあたしで、その手続きに奔走するのもあたしだ。
別に茶菓子でもてなせとは言わないが、せめて常識的な対応というものをして欲しい。
あたしはめげて、ムカついていたのだった。