キウイの朝オレンジの夜
夕方、あたしは一人で支部の近くの山に登った。
真っ直ぐ支部に帰る気になれなかったのだ。皆の顔をみて、笑顔でただいまって言う自信がなかった。頭には何もよぎらなかったし、心は深い青で満たされていた。
この仕事に付随するものなんだ。きっと、これはこれからもずっと続く。大事な人の保険を取り扱っている限り、その人たちの怪我や病気とも向き合わなければならなくなる。
担当するということは、一番酷い状態の時のその人に最後まで付き合うってことだ。
今日はたまたま山下さんだっただけ。
明日には仲の良い職域の社員の人たちかもしれない。姉やそのダンナ、あたしの家族かもしれない。幼馴染や学生時代の友達。あたしに保険を任せてくれた大事な人たちの大変な時に、あたしは泣かずに守れるかな。
大丈夫だよと励まして、最良の治療を受けれるように、その資金を提供する手続きを通して力になってあげれるかな。
振ってきた雨から守れるような大きな傘になって頭上に広がれるかな。
「・・・嫌でも、やるしかない」
自分で選んだ仕事なのだ。
呟きは緑の下で消えていく。もうすぐ夕焼けだと思って空を見上げたら、何と本当の雨まで降って来た。
晴れているのに、赤い夕方の雲から雨が。
「・・・あらまあ・・・。狐の嫁入りだあ・・・」
あたしはぼんやりと立ったままで顔に雨を受ける。