キウイの朝オレンジの夜


「はいはい、稲葉さん!で、あの~、何しにあたしはここへ?」

 5階で止まったエレベーターを降りながら、稲葉さんはあたしの背中を押して誘導する。

「週末を過ごしに」

「はい?!」

 胸ポケットからカード型の鍵を取り出し、彼は廊下の端にある部屋のドアを開けた。

「ようこそ、俺の家へ」

 あたしは驚いて、足が止まった。

 だって、付き合いだして1ヶ月くらい経つけど、稲葉さんの家に来たことはなかったのだ。

 いや、まあそんなこと言うならあたしの家だって送ってくれるから知っているだけで、彼も上がったことはないんだけど。

 とにかく、あたしは初めて恋人の部屋に来たってわけ。

 興味がなかったわけではないけど、稲葉さんはあまりプライベートな姿を見せたがらなかったしデートはいつも外だった。だから全く予期してなかったのだ。今晩、彼の部屋に連れて来られることなど。

「――――ええーっと・・・入ってもいいんですか?」

 彼は眉毛を片方上げて呆れた顔を作る。

「ここまで来て帰るつもりなのか?」

「い、いえいえ。はい、お邪魔します・・・」


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