キウイの朝オレンジの夜
「どうしてふられたの?」
やっぱりそこか。あたしは唸る。だがしかし、親ですらも公認の彼氏だったのだ。ここの説明抜きには今日の晩ご飯を食べさせて貰えそうにない、とあたしは判断して口を開いた。
「あたしといると疲れるらしい」
母親は首を捻った。
「・・・だってほとんど会ってないじゃない?」
「まったく、そうよね!でももうこの話題はお終い。出来たらあたしはこっちが振ったのだ、と思いたいんだから」
困った顔をする母親にひらりと手を振った。
「行ってきます。不毛な恋愛よりも、更に大変になりそうな仕事の方の成功を祈っててよ。なんせ、鬼教官の再来なんだから!」
言うだけいって、家を飛び出した。原チャリに営業鞄を詰め込み、メットを被る。
そうだ、そういう意味ではいいタイミングだった。
稲葉さんの登場で失った恋愛に浸っている暇は完全になくなったのだ。
一件目のアポの時間が近い。今月はまだ1件しか入れてない上に、それはお客様の健康診断の結果待ちだ。もしかしたら・・・なくなるかもしれない1件。あたしは小さくても今日の養老保険を勝ち取りたい!
キーを回してバイクは発進させる。
毎日は戦場なのだ。