キウイの朝オレンジの夜


 ここ最近のあたしは恋も仕事もパッとしなかった。6年目の営業で、身に付けた諦めと妥協のスキルを駆使して何とか乗り切ってきたのだ。

 支部の稼ぎ頭と呼ばれてはいたが、支部のためになんて意気込みはなく、ただ給料の水準を維持するためと、自分のお客様への責任だけでやってきた。

 だが今や、心を引っ張る恋はなくなり、諦めと妥協がスキル、なんて言おうものなら躊躇せずに瞬殺するような上司になったのだ。

 生き残りたかったら、踏ん張るしかない。

 ヤツには一切の言い訳が通用しないのは身をもって知っている。数字がものをいう世界で、賢すぎる男を前に誤魔化しは出来ない。

 ・・・あああああ~・・・・・。メットの中で前方を無駄に睨みつけていた。

 神様は、意地悪だ。



 その日のあたしは神気迫るものがあったに違いない。

 養老保険での資産運用をすすめていたOLさんには彼氏に振られた自分の将来の話まで持ち出して、契約を頂いた。独り身には共通する不安を煽る形になってしまったのだろう。

 その次の定年前のサラリーマンの長年続けて下さった契約を息子さんへ引継ぎする契約も、難なくクリアした。いつも以上にきっちりと説明をした。のめりこみすぎて、「神野さん、今日はどうしたんですか?締め切りかなんかですか?」と客に聞かれたほどに。

「仕事命になったんです」

 そう答えたら、書類に名前を書き込みながら、その親父さんはにやりと笑った。

「もしかして、失恋ですか?」

・・・まったく、もう!






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