キウイの朝オレンジの夜

 そんなわけで1.5件の成果を持ち帰り、恐る恐る入った事務所に稲葉さんの姿が無かったので、急いで契約入力を済ませる。

「あら、さっすがね~。新支部長就任のお祝いにさっそく契約持って帰ってくるなんて」

 お姉さま方が手を叩いて褒めて下さる。でもいつもみたいには喜べない。

「そんなつもりじゃないんです!必死ですよ、殺されないために!」

 あたしが顔もあげずにパソコンで処理をしながら答えると、あん?と何人かが首を捻っていた。

 当支部の生き字引である最年長の手塚さんが、自席からおっとりと声をかける。

「玉ちゃんあの人知ってるのね。私は噂しか聞いたことがないけれど、大変厳しい人らしいわね」

 周りの皆さんが、ええ~!?と声を上げる。あたしはこっくりと頷いた。

「そうです。ダメですよ、あの外見に騙されたら。あの甘え顔の下は、まさしく鬼です!」

 説明を求められたので、簡単に地獄の研修時代の話をしてあげた。その間にも指は止めない。やつが帰ってくる前にあたしはここを出て行きたい。

 あたしの持って帰った成果をホワイトボードに書きながら、副支部長まで聞き入っていた。

 話の内容にすっかり黙ってしまった周りの営業をかき分けて、事務席まで出来立ての書類を引っつかんで飛んでいく。

「横田さん!お願いします!何か不備があれば携帯に宜しくです!」

「はい、判りました。・・・神野さん次のアポですか?そんなに急いで」

 お客様からの連絡の有無や配布される書類が入れられる個人のボックスを確認してから、あたしは首を振る。

「違うの。でも次は5時まで戻りません!」

 そしてまた鞄を掴んで外へ飛び出した。



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