キウイの朝オレンジの夜
人目も気にせずぶんぶんと首を振った。
ダメだ、仕事に戻ろう。鬼だってなんだって、光のことを考えて泣くくらいなら、そっちの相手をするほうがマシだ。
恋愛で傷付くのは直視出来ない。
あたしには、まだ、出来ない。
2つに増えた鞄でゆっくりと支部に戻る。まだ支部長席が空白なのを確認して、成果が入ったことへの賞賛を方々から受けながら、支部の2階へ上がる。
制度が変わって、来客を直接各支部が受けるのをやめてしまった去年から使うことのなくなった2階の小部屋が二つ。
ここは上司との対話やお客様を呼んでのイベントなどに使われるが、普段は基本的に無人だ。
騒がしい事務所で電話をするのは苦手なので、あたしは電話でのアポ取りは専ら2階を使っていた。
さっき買ったキウィとスプーン、手帳と見込み客書き出し表、それに携帯を持って2階に上がる。
ボロボロのソファーにあぐらをかいて座り、書き出し表を見ながら半分に切ったキウィにスプーンを突き刺した。
芦田さんは、まだ打ち解けるのに時間がかかりそう・・・でももう一回昼間に行って、アプローチかけるべきだよね・・・奥谷家には妊娠中の奥様がいる、そうだ、まずここに電話して・・・。
ざくざくとスプーンを突っ込み、緑色のビタミンの塊を口の中に放り込んでいく。
あたしの元気の素。鬼に打ち勝つパワーを頂戴。
そしておもむろに電話を取り、片っ端からかけていった。