キウイの朝オレンジの夜
翌朝の朝礼で、いつものように前日の成果発表があった。
昨日件数を入れた営業は、あたしと、ベテランと新人のペアのみ。副支部長が読み上げたあと拍手がおこり、日によっては体験談などを喋らされるのだが・・・。
稲葉支部長は、にっこり微笑んで、朝礼台からあたしを見た。
「確約アポでなかったと聞いてますが、無事勝ち取ったんですね、さすがです」
喜びなんかちっとも沸かず、あたしは彼を見詰める。じっとりと汗をかきつつあるのを感じた。
大久保さんなどは美形に褒められたあたしを(ま、成果があるのを含めてだろうけど)羨ましそうに見ているが、あたしは知っている。
彼が、単に褒めることなど有り得ない。この後に来るハズだ、何か、あたしに対して――――――
「・・・で、昨日約束した4500万のアポ6件はどうなりました?神野さん」
ざわめきが消えた支部の中で、ただ一人微笑む稲葉支部長を目を細めてみながら、あたしは小さな声で答える。
「・・・約束はしてません。ですが、アポは取りました」
必死で。2階のぼろソファーの上で、2時間以上かけて。
「6件?」
微笑を崩さないまま悪魔は聞く。ああ、この甘え顔を7センチに伸ばした爪で引っかいてやりたい。
「・・・いえ、4件です」