キウイの朝オレンジの夜
『・・・やな女だな。泣くくらいのことは出来ないわけ?お前、俺に振られたんだぞ、今』
あたしはここでやっと目が覚めてきたんだった。そして、まだ一応彼氏である光のうんざりした声を聞いて、更にうんざりした。
一体何でこんな話になってるの?
久しぶりに、実に久しぶりに会う約束をしてやってきた彼氏の部屋にあたしは一人でいて、いつ帰るのと聞くためにした電話で別れ話なんて。
ま、とにかく今はその不思議は置いておいて。聞き逃せない言われように却下を伝えなければ。
「ちょっと待って、それは我慢出来ないわ。あたしがあんたを振るの。もっといい男を探す自由を自分から求めたのよ」
『はあ!?』
あたしは光の部屋を見回した。
今日、いや、昨日、ここにきてから片付けた部屋。5年もつきあっていただけあって、光の片付けの方法は知っている。そして残業するヤツのために作って、そのまま冷めていったラップをかけた晩ご飯。
「・・・5年も、こんなことしてたのね。あたしも馬鹿だったんだわ・・・」
あたしの呟きに電話の向こうが黙った。
そしてため息をついて、光が言った。
『とにかく、また今度話そう。俺は今日は部屋には戻れないから』
あたしはあんたに会うために仕事を片付けて来たんだけどね。暗い部屋の天井を見上げて思った。
せめて始発で帰ってこの真面目な話を終わらせようとすら思わない男に、泣いて縋るわけがない。
長い間付き合った女の為に、最後だというのにそんな小さな努力も出来ないのかと、がっかりと目を閉じる。