キウイの朝オレンジの夜
稲葉さんからいい香りがする。それに包まれてあたしはくらくらする。
間近に綺麗な顔があることに照れたあたしは早口で答えた。
「けっ・・・契約年齢43歳の男性、妻は無保険、家族型を望んでいて、胃に持病があります。終身が好きでこだわって言い張ってますが、あたしはそれよりも医療の充実を勧めていて―――――」
一通り説明を聞いてから暫く考えて彼が打った設計図に、あたしは唸ったものだった。
客の望みを全部叶えている上に、あたしが作ったものよりも成績となる部分が大幅に増えていたのだ。
「・・・一体どんな頭だ」
思わず呟いたあたしににやりと笑って、彼はあたしの机に積み上げられたオレンジをひとつ奪取したのだった。
「あー!あたしのオレンジが!」
「ケチケチすんな。礼はこれで許してやる」
・・・そんな夜もあった。
あー・・・思い出したら、何か、ムカついてきた。
12月の冷たい外気に鼻を赤くしてあたしは唸る。
支部長が赴任してきてはや2ヶ月目。彼は既に名実ともにここの一員、それを認めたくないのは今やあたしだけ。
笹口さんが寒さにストールを体に巻きつけながら煙と一緒に言葉をはく。
「玉ちゃんと繭ちゃんだけだもんね、夜も動ける独身組みは。繭ちゃんはまだ新人さんだし、玉ちゃんにどうしても期待も皺寄せもいくのよ」
それに、と笹口さんは口元を緩めて言った。