キウイの朝オレンジの夜

「繭ちゃん、どうやら本気で支部長に惚れちゃったみたいだしねえ。育成も大事だけどやっぱり支部長としては恋愛モード一色に染まりつつある子と二人っきりにはなれないんじゃない?稲葉さんてその点真面目そうだし」

 あたしはため息をついて缶コーヒーを飲み干した。

 そうなのだ。

 うちの新人の繭ちゃん(24歳。最年少)が、どうやら稲葉支部長に惚れちゃったらしい。

 あたしは一人でバタバタしていて夜しか支部に居なくて気付かなかったのだけど、大久保さんや宮田副支部長から聞いたのだ。

 ただ今入社半年の新谷繭が稲葉支部長を好きになったらしい、それもどうやら本気で、って。

 それを聞いた時は、ほえ~・・・物好きな・・・と呆れただけだった。

 確かに手腕は素晴らしいが、ヤツは相変わらず鬼だ。外見の良さにうっとりするどころか、その綺麗な顔をぐちゃぐちゃにしてやりたい、としかあたしは思わないのに、繭ちゃんは恋愛感情を持つのか!と思って。

 他の営業は皆支部長を褒めるから、ヤツの厳しさも高評価の中には含まれているらしいけど。

「お目目がハートになってますもんね・・・」

 言われてからよく観察してみると、確かに繭ちゃんの視線はいつでも支部長を追っていた。たまに頬を赤らめていたりする。

 あたしはそれを見て驚き、大豆イソフラボンの為に飲んでいる豆乳のパックを握りつぶすかと思ったものだった。是非彼女に忠告したい。生半な気持ちで告白なんてするんじゃないよ、と言いたい。


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