キウイの朝オレンジの夜
「・・・でもやっぱり、応援は出来ないなあ~」
笹口さんが笑う。なによ、嫌がってるけど実は玉ちゃんも好きなんでしょうって。
ないデス!ときっぱり言っておいた。
一瞬稲葉さんの笑顔が瞼の裏を横切ったけど、そのあとすぐにモノに出来なかった契約に関して詰められた前日の記憶が蘇り、あたしは気分を悪くした。
「まだ元彼引きずってるの?」
その質問にもないデス!と否定する。忙殺されててまだ泣いてすらいないのだ、そう言えば。
引きずる所か思い出しすらしなかった。
お先にと、笹口さんに手を振って事務所に戻る。
ドアを開けながら、ちょっと面倒臭いな、とは思っていた。
ここ2、3日、見て判るほどには繭ちゃんもアプローチしだしたのだ。まだ皆の前では他の営業と同じように接してはいるが、支部長が繭ちゃんから逃げてるらしいと宮田副支部長からは聞いていた。
あーあ・・・。だから男なんてこんな女の園に入れちゃダメなんだよ・・・。
それも、普通より外見のいい男なんて。
ため息をついて自分のボックスを開ける。するとそこには一枚の紙。
その緑の紙は解約要求に使われるものだ。あたしは口元を引きつらせてそれを凝視した。
・・・・・・ああ、やべ。
どうやって席に戻ったか覚えてない。
それはついこの7月の記念月に頂いた、大きな経保(経営者保険)の解約申し出だった。