キウイの朝オレンジの夜
成績がなくなるのはFPだって一緒だ。彼も、これから支社長の面談が待っているのだろう。どうして防げなかったのだ、倒産の危険を嗅ぎ取ることが出来なかったのはどういうことだ、と詰められるんだろう。
一営業であるあたしにはそんな叱責はない。ただ単に、当分施策にはのれないし、頂いた給料の返金とがた落ちになる自分の年間成績だけだ。
支社の前で渡辺FPと別れる。あたしは電車に揺られながら、一体どんな顔をするだろうか、と解約をまだ知らせてない稲葉支部長の事を考えていた。
夕方の5時40分すぎ、やっと支部まで帰ってきた。
すでに夜が来ていて、主婦の営業職員はほとんどが帰宅済みなはずだ。
いつも残っているベテラン3名と、あたしと上司二人だけだろう。事務員さんももう居ないから、解約の手続きは明日朝一番でして貰わなきゃ・・・。
駅からゆっくりと歩き出すと、冷たい欠片があたしの頬を掠めた。
上を見上げると、明るい照明の下を舞うのは雪だった。小さな白い欠片がハラハラと落ちてきている。
今年の初雪だ・・・・。冷えていく体を無視して、しばらくその場で雪を降らせる雲を探す。
だけどもう真っ暗で、空は見えなかった。
髪にも睫毛にもトレンチコートにも雪が降りかかる。気温はそんなに低くないから、積もったりはしないだろう。ただ道をぐちゃぐちゃにさせて、明日の通勤客をうんざりさせるだけ。
やっと歩き出して、徒歩2分の支部を見上げる。
珍しく2階にも電気がついていた。あたし以外にも電話などで2階を使用する人はいるから、まだ今日は営業もそれなりに残っているのかも、と思った。