キウイの朝オレンジの夜


 ・・・何てことだ。あたしったら・・・。泣くことも出来ないなんて。いやいや、と頭を振る。

 悲しむって、ゆーか・・・・つーか。むしろ、これは――――――――

「・・・むかついたあああああ~!!」

 ガバっとベッドから立ち上がる。ヤツの枕に罪はないが、しばらくサンドバックになってもらった。

 何だ何だ!?あのバカ男!冷血漢!緑の血!自分勝手!お前なんて名前の通りに光り輝く頭になりやがれ!ヘアワックスって何だっけ?レベルの悲しい頭になっちまえー!!!

 ぼすぼすと枕に拳を突っ込む。あたしは今や元彼となった人の部屋で一人で暴れて、素晴らしい10月の朝を台無しにしていた。


 神野玉緒28歳。大学卒業後、大手の保険会社に新卒として入社し、今年で6年目の生命保険の営業をしている。

 名刺には主任と文字が入るけど、それはほとんど意味のない肩書きだから自己紹介では言わない。

 去年、親の介護や姉の出産その他の理由で実家がバタバタした時に、少しでも手伝えるようにと入社以来所属していた都会の大きな支社の職域担当営業チームから、地元であるこの土地の小さな支部に一般営業職員として転属させてもらった。

 スーツを着て、色んな会社に出向いてそこで働く人達相手に保険の営業をするのから、普通の格好で一般家庭に出向いて保険の営業をする、所謂「保険のおばさん」と同じ仕事内容になったわけだけど、郊外のこの小さな支部はまるで一つの自治会のような温かい雰囲気があり、下は24歳から上は75歳の現役までいて、元々下町っこのあたしには居心地がよく、すぐに溶け込んだ。

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