キウイの朝オレンジの夜
介護が必要になった父親はその後病気と関係なく交通事故で他界してしまったし、姉は出産も育児も落ち着いてダンナの元へ帰った。
あたしは元の支社に戻れることも出来たのだが、お世話になってきた課長からその打診があったときに断ったのだ。ここで、頑張ります、と。
一人になってしまった母親を置いておけなかったのもあるけど、下は24歳から上は75歳までの女性ばかりで構成された22名の小さな事務所が、居心地が良かったのが大きい。
雨が降ったら「洗濯物いれてくるわ~」と家に帰ってしまう皆が、誰かが大きな契約を取れたらおかずを持ち寄って支部で飲み会を始める皆が、夕方4時をすぎるとそれぞれの家の子供が学校から事務所に帰ってきて、子供たちのランドセルと笑い声でいっぱいになるこの小さな事務所が、あたしは好きだった。
はじめは驚愕したそれらの日常が、今ではあたしの中でも当たり前になっている。
ここは会社でしょ!?ってか就業時間中に洗濯物取入れに行ったりとか、授業参観に行ってるけど!?とかの驚きは、移動してきて1ヶ月で慣れた。
これだからこそ、主婦だった人達が働けるわけだもんなあ、ある意味とっても優しい職種なんだなあ、と納得したのもある。
そんな中で独身28歳のあたしは、夜だろうが土日祝日だろうが動ける利点を生かしてチームリーダーなんか任されてしまっている。
故に、いつでも仕事をしていて、同じく不況による人員削減の煽りを受けて休日出勤の増えていた彼氏とはほとんど会えない1年だったのだ。
だけど、そろそろ結婚も考えていたのに。