キウイの朝オレンジの夜
恋人みたいに一緒にラブホを出て、駅前まで歩く。改札で別れる光を見上げて、あたしは顔の横でヒラヒラと手を振った。
「・・・じゃあね、今まで長い間大変お世話になりました」
その言い方に、彼は微かに笑った。
「お互い様、だな。体に気をつけろよ」
「光もね」
口に出しては言えないけど、あたしは心の中で付け足した。
絶対絶対、幸せになってよね、って。
支部に向かって歩き出すと、玉緒、と光の声がして振り返る。
他の通勤客を避けて立ちながら、最初の頃みたいな優しい表情で、彼がこっちを見ていた。
「仕事は――――――あまり・・・頑張りすぎるな。俺は、お前の仕事は大切だと思ってる。だけど心身を潰すほどの仕事なんてないんだからな」
あたしは目を見開いた。
じゃあな、と光が手を振って改札を通る。そしてそのまま他の通勤客の波にのまれて消えた。
お前の仕事は大切だと思ってる。・・・まさか、光からそんな言葉を。
生命保険の営業は、嫌がられて避けられることが普通だ。
元気な人に、万が一のことを話してお金をかけてもらう。タブーの話題をわざわざ出して人をうんざりさせることから仕事が始まる。