キウイの朝オレンジの夜
たらりと汗が額から流れる。
まだ暖房の行き届いてない朝の会社の給湯室で、あたしは冷や汗をかいていた。
だけど、落ち着けあたし!別に誰に見られたって非難される覚えはないのだから。
あたしは恐る恐る上司を見上げる。そして、唾を飲み込んでから言った。
「・・・プ・・・プライベートな時間のことですから」
稲葉さんは眉間に皺を寄せた。また冷や汗が流れる。手が震えだしそうだった。
に、逃げたい・・・うわああ~何でこんなことに。一体なぜ!?今なら普通に凍りつけるかもしれない、あたし。
痛いほどの沈黙がその場をたっぷり10秒間は支配した。それから低い声が、左隣から振ってきた。
「――――――うちの会社の就業時間を知ってるか?」
「へ?」
思わずヤツを見上げる。何言ってんの、いきなり?あたしは一瞬混乱して、それを表情にだしたままで答える。
「・・・9時から5時ですか?」
稲葉さんはローレックスの腕時計を優雅な仕草でちらりと見て、悪魔的な微笑を浮かべて言った。
「今、8時15分。つまりまだ神野の言うところの、プライベートな時間、だな」
そう言うや否や、ぐいっと腕を引っ張ってあたしを抱きしめた。