キウイの朝オレンジの夜
ぎゅう~っと強い力で抱きしめられて、仕立てのいいスーツに顔を埋め、あたしは口に出せずに絶叫した。
うっぎゃああああああああ~!!!!!
突然のことにパニくって、口から声が出ないのだ。
きゃーっきゃーっ!!!だだだだだっ・・・抱きしめっ・・・うっひゃああああああ~!!
「しっ・・・しぶちょ・・・ちょっと・・・」
「うん?」
稲葉さんの香りに包まれる。耳元でヤツの低い声が響く。あたしはバタバタと腕を動かす。何とかしてええええ~!誰か助けてええええ~!!
今自分に何が起きているのか理解出来ない。いや、わかってるんだけど、一体どうしてどうして何で何で抱きしめられてるの~!??
抱きしめたときと同じくらい唐突に、稲葉さんはあたしをパッと解放した。その突き放された勢いで、あたしは流しに背中をぶつける。
目を見開いて、前に立つ長身の男を見詰めた。
きっと真っ赤だ。全身の血液が沸騰しているみたいだった。
ドキドキと鼓動がうるさかった。
稲葉さんは二重の瞳を細め、口元を綺麗に引いて、美しく笑う。
「プライベートな時間の事だ、職場には関係ないし、誰にも言わないよな?」
「は・・・」
あたしが言葉を出せないで口をパクパクしていると、ヤツはその美しい微笑みのままで、ゆっくりと言った。