キウイの朝オレンジの夜


「昨日、新谷さんに迫られたのも、5時以降だったな、そういえば。神野の言うところの――――――」

 ドアに手をかけて、出て行きながら背中越しにあたしを見て囁いた。

「――――――プライベートな時間、だな」


 閉まったドアを呆然と眺める。

 ・・・・つまり。

 ・・・・つまり・・・?

「・・・口をつぐんでおけって、こと・・・?」

 プライベートな時間だから、繭ちゃんに抱きつかれたのも、あたしを抱きしめたのも、どっちも口にはだすなってことか!??

 繭ちゃんとの事を誰かに言えば、お前を抱きしめたとバラすぞ、という脅しだ。それによってあたしは噂の的になり、支部での待遇も雰囲気も一変する。支部長と対話するたびに、あの二人は出来ているらしい、と噂されるってことなのだ!

 お湯の準備が済んで、ポットが沸騰から保温に変わる。

 だけどあたしは動けなかった。

 ・・・・鬼教官に、抱きしめられちゃった・・・。しかも、それをネタに脅されちゃった・・・。

 副支部長が出勤してくるまでの残り15分間、そのままであたしは給湯室で固まっていた。

「うわあ!玉ちゃん・・・!?何、してるの?」

 出勤をした通りがかりの副支部長が給湯室を開けてあたしがぼーっと突っ立っているのを発見して騒ぐまで。

 あたしは動けなかったのだ。


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