キウイの朝オレンジの夜


 挨拶も言い訳も全部すっ飛ばして、あたしはその場から走り出した。出入り口を出て、駐車場でうずくまって深呼吸する。

 吸って~吐いて~、ハイ、吸って~吐いて~。

 頭がぐちゃぐちゃだった。

 抱きしめられたことも、それを脅しに使われたこともショックだった。

 回る視界の中でため息しか出ない。・・・光~・・・あたし、ダメかも~・・・。

 無理かも。あの人の下で仕事をするの。今度こんなことがあったら鼻血を出して出血多量で死んでしまう。・・・いやいやそうではなくて!プライドがめちゃくちゃでショック死のほうが先かも。

 あああああ~・・・・。

 一瞬ではあるが、ときめいてしまった自分への嫌悪感が襲ってきた。

 あいつはあの鬼教官なんだぞあたし!頭大丈夫!?寝不足で機能停止中なの!?

 しゃがみこんで、一人で悶絶していた。


 その後はぞくぞくと営業職員が出勤してきたし、外の寒さで意識も元に戻り、あたしは仕方なく事務所に戻った。

 だけど支部長席に座る稲葉さんはすでにいつものようにご機嫌で、他のメンバーに軽口を叩いて笑わせていたし、繭ちゃんも特に変化はないように見えた。

 副支部長の宮田さんだけが挙動不審なあたしを心配そうに見ていたけど、大きな一件の解約のことがあるからどうにか誤魔化せた。





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