キウイの朝オレンジの夜
3、揺れる心身。
「玉の部屋」にて。
28歳のあたし、5年ぶりに、一人のクリスマスが来た。
クリスマスだっつったって平日。だけどその平日が、一番人々の心が浮き立つ金曜日だった。
その日は昼間の営業中でも、上手く行きそうな契約を目の前にぶら下げられて、アポをキャンセルされてしまった。
「ごめん~神野さん!俺今日デートだからさあ、夜は諦めて」
あたしはがっくりと肩を落とす。
支部を移動する前からずっと自分が担当として通っている馴染みの企業にこの春に入社したばかりの張り切りボーイを、やっと契約を貰えるくらいに仲良くなったところだった。
その詰めで、クリスマスに邪魔をされた。
「ううう~・・・。仕方ないとは言え、もう今年の営業日も少ないから諦められない!15分でもあたしにくれませんか?」
新人君の席の横に中腰になって懇願するも、彼は非情にも首を横に振る。
「だめです!ここ最近ずっと忙しくて、彼女とマトモなデート出来てなかったんですよ。今日遅刻なんてしたら、俺捨てられます」
構わん、捨てられてくれ。と心の中でつい言ってしまった。もうちょっとで口に出すところだった。危ない危ない・・・。
「・・・仕方ないですね。独り身のあたしにはクリスマスなんて何ぼのもんじゃい!ですけど、ラブラブなカップルの邪魔は出来ません。今日は諦めます」
あたしがため息をつくと、新人君はすみませんねえ~とカラカラ笑う。
俺の同期もフリーですけど、紹介しましょうか?などとほざく新人君をどつきたくなる。そんな気遣いはいらねーから契約をくれ。