キウイの朝オレンジの夜


 じゃあお先にね~と次々帰っていき、5時過ぎたからと事務員さんも帰ってしまった。

 繭ちゃんも、お先ですとさっき出て行ったところだった。新人の繭ちゃんは結局、あの抱きつき事件のあとに、稲葉さんに告白したと聞いていた。

 それを宮田副支部長に聞いて、あたしは感心したんだった。

 ・・・すげー。勇気ある!って。

 あたしと一緒にその場面を見てしまった副支部長に背中を押されたらしい。

 職場でいきなり抱きつくのはどうかと思う、それだったらちゃんと気持ちを伝えて恋人になりなさい、このままじゃ、周りもどうしていいか判らないでしょう、って。

 保険会社では支部長と事務さんとか、支部長と営業とか、営業同士とか、カップル誕生は実によくある話なのだ。しかも、別に禁止もされてない。だから公認の恋人になってくれさえすれば、別に問題はない、と。

 だけど、稲葉支部長はあっさり断ったって。職場に恋愛を持ち込み、それでモチベーションが上がったり下がったりするのは、俺はどうかと思う、って。周りに遠慮や気遣いまでさせるのは成人した人間のすることじゃない、と叱責までしたらしい。

 確かに気がそぞろの繭ちゃんの成績や仕事への態度は悪くなってきていたから、先輩方が気にして同行営業なんかも増えていたんだった。だからそれは上司としては仕方がない叱責だったかも、だけど。

 ・・・でも、告白された時にいうことか?ヤツの基本は3年前と変わってない。仕事を優先し、そこを真面目に考えるのは素晴らしいことだとは思う。

 だけど・・・・やっぱり、鬼だ。


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