キウイの朝オレンジの夜
「違うって。美人に抱きつかれたって嬉しいかどうかは、その状況にもよるだろう」
「いいですってば、隠さなくて。誰にも言いませんから、ほらほら」
「・・・神野」
「彼女、いないんでしょ?でも実は彼氏はいるとかじゃないんですか?」
反応が面白くてにやにやが止まらないまま支部長へにじり寄り、畳み掛けていると、嫌そうに顔を歪めていた稲葉さんがするりと表情を変えた。
・・・うん?何だ?いきなり、余裕気な微笑み―――――――
あたしは思わずソファーの上で後ずさる。
「俺は」
口元に美しい笑みを浮かべて、稲葉さんは人差し指をつと伸ばした。
「女性が好きだ。特に、唇には惹かれるね。・・・こんな風に何もつけてない素の唇をみると、舐めてみたくなる」
微笑みながら、オレンジを食べていたから口紅が取れてしまっていたあたしの唇を、サラッと撫でた。
その感覚にあたしは固まる。
一瞬で形成は逆転して優位に立った稲葉さんが楽しそうに続けた。
「・・・まあ、神野のはキスしなくても判るけどな」
「・・・は?」