キウイの朝オレンジの夜


 それか自分の上司ではなく、支社勤務だったら良かったのに。それなら大会などで見かけるだけで、たまの目の保養てだけで済んだのに。

・・・・ざーんねーん。

 年始の挨拶に支部長席まで行ったあたしにかけた第一声は、「明けましておめでとう、神野。今年も是非、優績者クラブへ入ってくれ」という仕事熱心な上司としての言葉だった。

 ・・・・優績者クラブ・・・。あたしに、億単位の契約を取ってこいって言ってんだな、こいつ。

 あたしはひきつった笑顔で逃げた。

 やっぱり想像の世界に入り込むのはよくない。現実を見よう、あたし。3年前はともかく、今はヤツにも彼女がいるかもしれないし(居ないとは一度も聞いてないもんな)、年始から釘をさされたあたしは恋愛どころじゃないハズだ。

 新年の挨拶も兼ねて、お土産を持って職域を訪問した。

 どこも今日は挨拶で終わりらしく、仕事始めは明日からだと機嫌が良さそうに会社で飲んでる人たちもいた。

 あたしは何とか新人君を捕まえて(何と、やつは約束を忘れていた)、それから1時間会議室を借りて監禁し、説明して納得させ、無事に契約を頂いた。

 書類が揃っているかを確認して、頭を丁寧に下げる。

「本日はお忙しいところ、ありがとうございました。独身の間は医療重視でいいけど、結婚することになったらまた教えて下さいね。責任が変わりますからね」

 と釘をさし、本当のところどうでもいいのだけれども彼女の話なんかを聞いたりして彼のテンションを上げといた。

 エレベーターまで送ってくれた新人君に再度頭を下げて挨拶し、あたしはさて、とビルの案内板に向き直る。


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