キウイの朝オレンジの夜
去年の秋に、このビルに新しい会社が移転してきたのだ。そこそこ大きな広告会社の新しく出来た部門の為の事務所だとまでは、守衛さんから情報を得ている。
いつもの職域に来るついでに、そこにも出入りが出来ないかな~と、前々からあたしは企んでいたのだった。
・・・年始すぎるかも、だけど・・・。でも通常業務が始まる前の方が、ちゃんと話を聞いてくれるかも。
あたしは一人で頷くと、エレベーターに乗り、階上を目指す。営業職である以上は、どこからか自分で行く場所を確保する必要がある。
地域の各家庭を一軒づつ回るのも王道と言えば王道ではあるが、あたしは元々職域担当営業部出身だから、地域の家に飛び込みするのには慣れてなかった。
やっぱり、企業訪問が好き。
エレベーターを出て、小さなカウンターに近づく。多分、ここが受付の代わりを果たすのだろう。
うーん・・・だけど、誰もいない・・・。
すりガラスの向こうに人影が動くのは見えるから、会社としては始まってるんだと思うけど・・・。
あたしはガラス戸に近づき、3回ほどノックする。
「・・・失礼します」
少しだけドアを開けて中を覗き込んだ。
ビルの一つの階のほぼ半分を使っているらしく、大きな空間をパーテンションで小さく区切って使っているらしい。広告会社って聞いてるけど、外資系かな?そんな感じに見える。