ペーパースカイ【完結】
くじら公園は小さい頃、何度も何度も通った。

けれども、こんな真夜中に来ると、
なぜだか見知らぬ場所に見える。

「あはは、見て。ブランコの向こう」

輪子さんが、指差す。白い猫が、歩みを止めてこちらを見ていた。

ほんの数歩、私たちがブランコの方へ歩き出したら、身を低くしたまま、茂みへと消えていった。

あはは、とまた笑って、輪子さんがブランコに乗る。

私もその隣で、緩くブランコを漕ぎながら、なんとなく空を見上げた。

漆黒の闇に、ぼんやりと丸みを帯びた月が貼りついていた。

「懐かしいね、ここ。憧子が小さい頃、いっぱい来たの覚えてる?」

「うん」

「昔さ、苺ともこんな夜中にここに来て、あのくじらのおもちゃに登ってさ

二人でカクテル飲んで酔っ払って話したりしたよ」

あの、というところで輪子さんはぴんと人差し指を伸ばし、この公園の名前の由来である

中央辺りに設置されている大きなくじらの遊具を指した。

「それって、いつの話?」

「んー。高校生の頃」

「酔っ払っちゃ、だめじゃん!不良だなぁ二人とも」

「あはは。持ってきたのは、苺だよ?『失恋祝い』にって」

「……失恋?」


< 144 / 200 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop