ペーパースカイ【完結】
輪子さんの表情がやわらかく溶けて、いとおしそうに私を見つめる。

なんだか恥ずかしくなって、私はまた空を見上げた。

「月、きれい」

「ほんとだ」

「ね、憧子にはあの月、どんなふうに見える?」

「どんなふうにって…どういう意味?」

ブランコから、ふいに立ち上がり、輪子さんはまた風に煽られ泳ぎ出す髪を

左手で押さえながら言った。

「その、失恋した時ね、同じ質問を苺にしたの。

私はその時の苺の答えが今でもしっかり心に残ってる。

こんなこと言えるなんてすごい子だなって思ったわ」

「…なんて、言ったの?」

ふふ。まだ秘密!

そう言って、くるりと踵を軸に振り向いた輪子さんの頬に、一筋涙が流れていた。驚いた。

「明日…あ、もう今日か。一緒に病院行こ。その時苺に直接聞いてみて。

…何か、そういうのがないと、今の私はほんとにダメみたい」

もしかしたら、私よりも、輪子さんの方がママを好きなのかも知れない。

うっすらと青く明け始めた空には、まだうすぼんやりと月が浮かんでいた。

「そろそろ、帰ろうか」

公園の入り口を出る時に、くじらのてっぺんを見たら、もう高校生の二人の姿は

見えなくなっていた。
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