ペーパースカイ【完結】
「脳震盪って、そーいうものらしーよ。前後の記憶が飛んだりするみたい」

ベッドの中、枕を背中に置いて座りながら、あたしは説明した。

脇に設置してある小さな、ドアのついた棚に入院グッズを色々しまいながら

輪子が言う。

「他に忘れてることとかは、ないの?」

「うん。芳明くんとみんなとすき焼き食べたこととか、全部覚えてる」

そこで憧子に視線を移したら、すました顔で棚の上に花籠を置いた。

「きれーなお花!ありがと」

返事はない。ない理由。それも、覚えてるからさっそく謝った。

「憧子ちん、昨日ごめんね?ママ、余計なこと言っちゃったよね」

「別に」

「えー?なんでそんな素っ気ないのぉー?」

「そんなこと、ないよ」

わが娘とは思えぬほどの、無愛想っぷり。

まぁ、いつものことなんだけど。でもでも。

自分で勝手にとは言え、事故に遭ったハハオヤに対する娘の態度としては

ちょっと冷たすぎるよなぁー。

あたしは憧子がトイレに立った隙に、輪子ちんにボヤいた。
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