ペーパースカイ【完結】
そのまま黙って中庭に戻り、芳明はぽつぽつと話を始めた。

両親の間は冷え切っていて、ずいぶん前から離婚話が出ていたこと。

父親はこちらに留まるが、中学生と小学生の弟と自分は母親の地元に

ついていくこと。

「うちの母親、身体が弱いんだ。…今回のことで、ずいぶん寝込んだりもしてた。

転校はしたくないけど、心配だから…。母親も、弟たちも」

「……」

「先生にも、色々相談に乗ってもらったりしてさ。悩んだけど…すげー悩ん

だけど……。すぐに言えなくて、ごめん」

むせかえるような中庭の青い芝生の匂い。

そろそろ食事を終えて、楽しげに何か話しながら

それぞれ歩き出していくカップルたち。

「憧子、お母さんのこと、あんまり好きじゃないの?」

突然、あの日の芳明の言葉が胸をよぎる。

「…ずいぶん、前から、離婚したら…お母さんについていこうって、思ってた?」

「…うん…。そうだな。もし、親父とこっちに残っても…オンナ、いるみたいだし…

そういう親父に養ってもらうのは、嫌だってのもあったし」

「じゃあ…」

「ん?」

チャイムが鳴った。予鈴。私は、思い切って聞いてみた。

「なんで、私とつきあうことにしたの?」

「………」

ほとんど食べれなかったお弁当をしまいながら、私はちょっと責めるように

言ってしまった。

「すぐにいなくなっちゃうなら…なんで告白した時、OKしてくれたの?」

もう、すっかり周りに人影はなくなっていた。

破れてしまいそうな胸の高鳴りが、芳明の耳にまで聞こえそうだ。

「…好きだから」

先に立ち上がった私を見上げて芳明が言った。

「俺も、憧子のことが好きだったからだ」

瞬間、二度目のチャイムが、鳴った。





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