ペーパースカイ【完結】
ちっともおいしくなさそうに、チビチビとビールを飲む苺。

この子と向かい合い、こうしてテーブルについていると、憧子と一緒にいるような

錯覚に囚われる時がある。

憧子といる時は、苺といるような気がするし。

まったく、いつだか一哉が言っていた通り、この親子は外見がコピーしたように

うりふたつだ。

茶色いクセ毛。茶色い、大きな目。まるっこい鼻に、ぽってりとした唇。

なのに中身は全然似ていない。

人懐こくて、喜怒哀楽が激しくて、いつまでもコドモみたいな苺に比べて、

憧子は年齢よりも大人びていて、冷静で、他人に対する警戒心も強い。

それでも憧子は、思春期を迎える前は苺にべったりの甘えんぼうだった。

「ママ、だいすき」

無邪気に笑ってそう言って苺に抱きついていた。いつもそばにいた。

「…さびしいな」

ぽつり。苺がつぶやく。

「あんなに『ママ、ママ』って言ってくれてたのにな」

どうやら私と同じように、昔を思い出していたらしい。

「やっぱり、話は苺が聞いてあげなよ」

みるみる目をまん丸にした苺。

「どーして?」

「私、こないだ言ったじゃない」

「?」

「本当の親には、言いにくいこともあるって。でもさ、本当の親じゃなきゃ

聞いてあげられないことだってあるんだと思う。

憧子の気持ち、知りたいでしょ?心配でしょ?…それだけでいいのよ。

その気持ち一つで、苺は憧子に話を聞く権利、ある。私よりもね」

「……」

黙った苺はうんともなんとも言わず、ただ、ビールを飲み続けた。





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