ペーパースカイ【完結】
こんな状態の苺に、揚げ物をさせたり包丁を持たせるわけにはいかない。

とりあえず座ってなさいと椅子にかけさせて、流しで手を洗っていたら

「私も、手伝う」

と言って、憧子がするりと寄ってきた。そして声を潜め

「なんでママあんなに酔ってるの?」

横目で背後の大騒ぎ(苺一人の)を睨んだ。

「さぁ…、退院祝いだから、かな…」

「嘘。なんかあったんでしょ」

さすがに娘だけあって、苺が酔う時は何かがあった時だとわかっているらしい。

「わかんないの?」

優しく、刺激しないように答えると、憧子はさっきの苺と同じくらい目を丸くしてから

「ああ…私のことか」

と、つぶやいた。

「心配なのよ。わかってあげて?」

私の言葉に、手際よくザクザクとキャベツを刻みながら

口をとんがらかせている。

そんな表情も、まったくもって苺にそっくりだ。包丁さばきは私譲りだけれど。

「いちごちゃん、おさけくさーい」

「きゃははは!ごめーん苺子ぉーー!!あ!!輪子パパ、もっと飲んで飲んで!」

「あ、ああ、ありがとう」

「ぎゃー!!ビールこぼれたああああ!!!」

「…はーーぁ。もう!!」

布巾を持って、憧子がテーブルに歩いていく。

私は思わず可笑しくて、こっそりと笑った。





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