ペーパースカイ【完結】
ずっと前。

まだ苺子が生まれてない頃、一哉と大喧嘩したことがあった。

もうこれは離婚するしかないかも、と煮詰まるほど深刻な喧嘩だった。

ところがある日、何日もろくに口をきかない冷戦状態の私たちに業を煮やした苺が

夜中、酔っ払った勢いで私たちをテーブルに引きずり、座らせ、

私の隣にドッカと座ったかと思ったら

突然きっぱりとこう言った。

「よし、一哉!男同士、サシで腹割って話すぞ!!」

それに対し一哉は

「苺ちゃん男じゃないし、全然サシじゃねーじゃんかよ!」

と突っ込み、私は思わず笑ってしまった。

「笑い事じゃないぞー輪子ぉ!!いいかーー!!女が口出しするんじゃなぁ~い!!」

「苺も女だし、一言も口出ししてないじゃんよ!!」

今度はそれを聞いた一哉が吹き出してしまった。

結局はそのことがきっかけで、私と一哉はまた話をするようになり、

何度も相談を重ね、離婚の危機を免れたのだ。

苺には、場を和ませる力がある。人を救う力がある。

本人はどうも気づいていないようだけれど、うちの家族は皆それぞれ

苺のおかげで救われた場面が何度となくあるのだ。

(だから、きっと憧子も。)

苺は母子家庭に生んでしまったことを、娘に対して必要以上に後ろめたく

思っているようだけれど、私からみたら立派な母親だし、立派な子育ての先輩だ。

憧子がもう少し、ほんの少しでも苺に対して素直になれば、これ以上ないくらいに

心強い味方になるはずだと、私は確信している。

だから、今回は彼女たちをただ見守ろう。そう、思っている。

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