ペーパースカイ【完結】
アスファルトが雨を吸い込んだ時の独特の匂いを立てて私と芳明を包む。
バチバチと派手な音を立てて雨粒たちが傘を揺らす。
「やっぱ、折りたたみは頼りないな…でも、ないよりマシだな」
何日も避けていた私を責めるどころか、変わらない笑顔で穏やかに芳明は笑った。
「ありがとう。おかげで濡れて帰らないで、済んだよ」
「うん」
「………」
「………」
「あの」
「あのさ」
「えっ」
「あ」
「………」
「………」
かろうじて沈黙が気まずくないのは、芳明がいつもと同じにしてくれるから。
雨音が、激しいから。
「いつも、傘持ってるんだね」
私は、傘の影に隠れて、初めてキスをした日のことを、ふいに思い出していた。
もう、何万光年も遠い昔のことのようだ。
「子供の頃、親が共働きだったからな。一日中晴れだってわかってる日も
絶対持たせられた癖が残ってるんだ」
濡れるよ。もうちょっと、こっち。
芳明の左手が、私の肩を包み、優しく引き寄せた。ぎゅん、と来た。
なんだろう?ぎゅん。って。背筋まで響く、ドキドキの、最上級かな。
どうしようかな。私、まだこんなに好きだ。この人が。
バチバチと派手な音を立てて雨粒たちが傘を揺らす。
「やっぱ、折りたたみは頼りないな…でも、ないよりマシだな」
何日も避けていた私を責めるどころか、変わらない笑顔で穏やかに芳明は笑った。
「ありがとう。おかげで濡れて帰らないで、済んだよ」
「うん」
「………」
「………」
「あの」
「あのさ」
「えっ」
「あ」
「………」
「………」
かろうじて沈黙が気まずくないのは、芳明がいつもと同じにしてくれるから。
雨音が、激しいから。
「いつも、傘持ってるんだね」
私は、傘の影に隠れて、初めてキスをした日のことを、ふいに思い出していた。
もう、何万光年も遠い昔のことのようだ。
「子供の頃、親が共働きだったからな。一日中晴れだってわかってる日も
絶対持たせられた癖が残ってるんだ」
濡れるよ。もうちょっと、こっち。
芳明の左手が、私の肩を包み、優しく引き寄せた。ぎゅん、と来た。
なんだろう?ぎゅん。って。背筋まで響く、ドキドキの、最上級かな。
どうしようかな。私、まだこんなに好きだ。この人が。