ペーパースカイ【完結】
「あっ、おい、憧子!」

涙が流れてきたのを悟られたくなくて、慌てて傘の中から逃げ出した。

「ひゃー!制服どんどん重くなる~!」

今の自分に可能な、ありったけの明るい声を出す。

「風邪ひくよ、入れよ」

「いった!雨、目に入った!」

「入れってば」

腕を掴まれた。

その皮ふが、ひりひりと音を立てる。

「憧子」

私を傘に引き戻し、小さな小さな、聞き取れないほどの声で芳明が言った。

「泣くなよ」

「…え?」

「頼むから…、いや、泣いてもいいよ。でも、隠さないでくれよ。

…言いたいことも全部、言ってくれよ」

「………」

「じゃなきゃ俺たち、なんのためにつきあってんだ?」

雨に煙った風景のせいか、なぜだか芳明の姿が儚く目に映る。

「一人で、終わらせないでくれよ」

「じゃあ、二人で終わらすの?」

「そういう意味じゃない」

いつの間にか私たちは、まだ猛然と降り続ける雨音を聞きながら、

道端に立ち止まっていた。

「…行っちゃうくせに」

見上げた芳明の目が、痛々しげに私を見つめ返す。

「遠くに行っちゃったら、もう終わりじゃない。

きっと芳明、私のことなんかすぐに忘れちゃう。忘れちゃうよ…!!」

「憧子!!」

声を振り切り、全速力で私は走った。

大きな水たまりを避けもせず走ったら、靴下までグシャグシャに濡れた。

やけくそになって靴下も靴も脱いで、裸足で駅まで突っ走った。



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