ペーパースカイ【完結】
ちょっとうとうとしかけていたら、

バタバタと派手に階段を上って来る音がして目が覚めた。

同時にドアが開く。

「なに…?おかゆ、できたの…?」

私の言葉に答えず、お盆にお椀とお水を載せたママがずんずん歩み寄ってきた。

「もう、ママ、うるさいよ…もうちょっと静かに…」

「憧子!」

「へ?」

「ダメだよ!!」

何が?

と、私が問いかけるより先にまくしたてられた。

「芳明くん、引っ越すんだって?ちゃんと話、しなきゃダメだよ!」

「…なんで知ってるの?」

さすがにお盆だけはそっとテーブルに置いたママは、今度は少し小声で言う。

「携帯にかけても通じないからって、家に電話あったんだよ、今」

「………」

「ダメだよ、逃げたら。もう時間ないんでしょ?これからのこと二人で話さなきゃ。

もうすぐいなくなっちゃうんだよ?好きな人が、いなくなっちゃうんだよ?

今までみたいには、会えなくなっちゃうんだよ!?」

「…ママには、かんけーないじゃん!!」

私は思わず叫んだ。しかし、ママは怯まない。

キッと視線を私にぶつけたまま、こう言った。

「自分の力でつかんだものを、自分のせいで離すの?憧子だけの問題じゃないんだよ?

芳明くんだってツラいんだ。なんで、わかってあげないの?

好きな男の子をなんで大事にしないの?あたし…ママ、憧子を見損なったよ!

憧子には…絶対に、空を破く力があるって信じてたのに!憧子の、バカ。

弱虫!!」

言いたいだけ言って、なんとママは泣き出した。それも、かなりの大声で。

「うわああああああん!!」

まるきり子供みたいなその泣き声にあっけに取られながら、私の胸にはママが言った

『ソラヲヤブクチカラ』

というよくわからない言葉が、なぜだか妙にひっかかって取れなかった。
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