ペーパースカイ【完結】
# 8 芳明
家が、嫌いだった。
夏は死ぬほど暑くて、冬は冬で、死にたくなるほど寒い。
どこかにある隙間から、蟻やゴキブリやクモ、トカゲまで入って来る。
木造築30年以上、小さな、マッチ箱のような古びた2階立ての家。
俺が中学に上がるくらいまで、母親は夜の勤めに出ていたので
夜になるとまだ幼稚園児だった将太と小学生だった昭彦は
俺にくっついてきて離れなかった。親父は毎日帰りが遅かった。
弟たちのお守りで忙しく、ひねくれるような暇はなかったから
自分で言うのもバカバカしいけれど、俺はまっすぐ、地味にまじめに育った。
言い争いの絶えない両親たちは、まるでお互いを憎んだり疎んだりすることで
途絶えそうな夫婦関係を、なんとか持続させているように見えた。
しかし、そんな歪んだつながり方がいつまでも続くわけがない。
離婚することが決まった時、きっと両親は我が事ながらホッとしただろう。
誰よりも一番ホッとしたのが、息子である俺だということには気づかなかっただろうが。
「芳明、お母さんと行く?それとも」
母に問われた時、真っ先に思ったのは学校のことだった。
せっかく入った、結構頑張って勉強して入った高校。クラスメート。
そして、弟たちのことを思い、目の前のやつれた母のことを思い
「母さんについていくよ」
そう答えた瞬間に、目の裏に憧子の笑顔がパッと花のように咲いて、すぐに散った。
夏は死ぬほど暑くて、冬は冬で、死にたくなるほど寒い。
どこかにある隙間から、蟻やゴキブリやクモ、トカゲまで入って来る。
木造築30年以上、小さな、マッチ箱のような古びた2階立ての家。
俺が中学に上がるくらいまで、母親は夜の勤めに出ていたので
夜になるとまだ幼稚園児だった将太と小学生だった昭彦は
俺にくっついてきて離れなかった。親父は毎日帰りが遅かった。
弟たちのお守りで忙しく、ひねくれるような暇はなかったから
自分で言うのもバカバカしいけれど、俺はまっすぐ、地味にまじめに育った。
言い争いの絶えない両親たちは、まるでお互いを憎んだり疎んだりすることで
途絶えそうな夫婦関係を、なんとか持続させているように見えた。
しかし、そんな歪んだつながり方がいつまでも続くわけがない。
離婚することが決まった時、きっと両親は我が事ながらホッとしただろう。
誰よりも一番ホッとしたのが、息子である俺だということには気づかなかっただろうが。
「芳明、お母さんと行く?それとも」
母に問われた時、真っ先に思ったのは学校のことだった。
せっかく入った、結構頑張って勉強して入った高校。クラスメート。
そして、弟たちのことを思い、目の前のやつれた母のことを思い
「母さんについていくよ」
そう答えた瞬間に、目の裏に憧子の笑顔がパッと花のように咲いて、すぐに散った。