ペーパースカイ【完結】
『これからT線に乗ります』
電車のホームで、憧子にメールを打った。
このホームに降り立つことも、もう当分はないのかと思うと
なんだか不思議な気分だった。
どこかに旅行にでも行くような格好をして、そのわりに少しも弾んでいない様子の
俺たち家族は人から見たらどんなふうに映っているのだろう。
線路の向こうに並んだ、見慣れた看板の文字をなんとなく眺めながら
どうでもいいようなことばかり考えて、電車を待つ。
…憧子とは、今日、会えないのか?
…会いには、来てくれないか?
情けない俺は、そんなことを考えながらも、最後の希望をかけて
彼女にメールを送ったけれど。
読んでくれているかどうかさえ、今となってはわからない。
アナウンスの声が響き、やがて電車がホームに入ってきた。
「もう少し、下がりなさい」
母親が将太に注意する声が、轟音にかき消される。
…何度も、チャンスはあったんだ。
憧子が風邪を引いて休んでいた間も。
どうしても会いたいのなら、家に行けば良かったのだから。
なのに、それが出来なかった。
俺が引っ越すことを担任がクラスメートに話した後、
憧子とよく一緒にいた女子たちに数回聞かれた。
「憧子は、どうするの?」
どうするも、何もない。どうしようもないんだ。
だけど、別れるつもりなんて俺はない。でも、憧子は?
「離れたら、終わっちゃう」
「私のことなんか忘れちゃう」
そう言って泣いていた彼女は、もう俺を忘れる心の準備をしているのかも
知れないという気持ちと
いや、まだ好きでいてくれるはずだという気持ちが、毎日行ったり来たりして
結局は、足が竦んだ。
ただ単に、俺は憧子の決意を聞くのが怖かったんだ。
振られるのが、怖かったんだ。
電車のホームで、憧子にメールを打った。
このホームに降り立つことも、もう当分はないのかと思うと
なんだか不思議な気分だった。
どこかに旅行にでも行くような格好をして、そのわりに少しも弾んでいない様子の
俺たち家族は人から見たらどんなふうに映っているのだろう。
線路の向こうに並んだ、見慣れた看板の文字をなんとなく眺めながら
どうでもいいようなことばかり考えて、電車を待つ。
…憧子とは、今日、会えないのか?
…会いには、来てくれないか?
情けない俺は、そんなことを考えながらも、最後の希望をかけて
彼女にメールを送ったけれど。
読んでくれているかどうかさえ、今となってはわからない。
アナウンスの声が響き、やがて電車がホームに入ってきた。
「もう少し、下がりなさい」
母親が将太に注意する声が、轟音にかき消される。
…何度も、チャンスはあったんだ。
憧子が風邪を引いて休んでいた間も。
どうしても会いたいのなら、家に行けば良かったのだから。
なのに、それが出来なかった。
俺が引っ越すことを担任がクラスメートに話した後、
憧子とよく一緒にいた女子たちに数回聞かれた。
「憧子は、どうするの?」
どうするも、何もない。どうしようもないんだ。
だけど、別れるつもりなんて俺はない。でも、憧子は?
「離れたら、終わっちゃう」
「私のことなんか忘れちゃう」
そう言って泣いていた彼女は、もう俺を忘れる心の準備をしているのかも
知れないという気持ちと
いや、まだ好きでいてくれるはずだという気持ちが、毎日行ったり来たりして
結局は、足が竦んだ。
ただ単に、俺は憧子の決意を聞くのが怖かったんだ。
振られるのが、怖かったんだ。