ペーパースカイ【完結】
「平日だから、空いてるわね」

新幹線の中、荷物を上げるのに苦心している母親の手からそれを奪い

棚に乗せた。

「ありがとう、芳くん」

なんだかいつもと違うと思っていたら、母親は化粧をしていた。

「化粧、してんの」

「やだ、今頃気づいたの?」

母親はクスリと笑い、

「くたびれちゃった顔、お母さんたちに見せたくないもの」

と、呟いた。

「腹減ったーお母さん、なんか食いたいよー」

将太が言う。「俺も」と、昭彦。

携帯を見た。発車までには、まだ少し時間がある。

「じゃ、俺ホームで弁当か何か買ってくるわ。おまえら何食べたい?」

「しゅうまい弁当っ!あとなんか飲みもん」

「俺、幕の内とお茶」

「母さんは?」

「ありがとう。母さんは、なんでもいいわ。安いので」

『なんでもいい』は、母親の口癖だ。

俺は頷き、ホームに出た。売店まで歩きながら、なんとなく

『憧子のお母さんだったら、絶対なんでもいいなんて言わないだろうな』

と思った。
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