ペーパースカイ【完結】
憧子とは、一度だけしか席が近かったことはなかった。

正直初めて言葉を交わした時のことも、その内容も覚えていない。

ただ、なんとなくいつもそばにいる女子だった。

何人かで集まって喋っている時も、気がつけばそばにいた。

けれども、特に印象に残るような会話はしなかったと思う。

憧子を意識するようになったのは、「眉毛描いてない事件」の時だった。

「セーフ!間に合った~」

珍しく遅刻ギリギリで教室に飛び込んできた彼女に、女子たちが笑いながら

話しかけているのを何気なく見ていると、椅子に座った瞬間、

パッとおでこに手を当てたのだ。

「どうしたの?」

と尋ねると、照れくさそうに彼女は笑い、

「急いで来たから、今日眉毛ないんだー」

見ちゃダメだよ、と念を押し、結局一日中おでこに手のひらを当てて授業を受けていた。

可愛いな、と思った。

我ながら、めちゃくちゃちょろい。

好きになった。その日から憧子は、俺の特別な女の子になった。

その後しばらく経ってから想いを告げられた時は

「いいよ」

と、冷静を装って答えたが、内心嬉しくて嬉しくてたまらなかったのを覚えている。



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