ペーパースカイ【完結】
# 9 憧子
だめだ。もう、間に合わない。

『これから、T線に乗ります』

携帯を見つめながら黙りこくって動けない私を見て輪子さんが

「芳明くん?」

と早口で聞いた。頷いた私を見て、ママと憧子さんが顔を合わせた。

「行くよ、憧子っ!!」

ママが立ち上がる。

「でも、もう間に合わないよ」

「いいから、早く!!」

小柄なその身体の、どこにそんな力があったのか。

ママは容赦なく私の手を掴み、玄関へとぐいぐい引っ張った。

「痛い。痛いってば、ママ!」

「駅までダッシュだよ!!!」

もう、私の声さえ耳に入っていないようだ。

先にドアを出て行くママ。それを追う私。

「気をつけて。頑張りなよ、憧子!!」

輪子さんに見送られ、私はほとんどやけくそで、舗道に走り出た。
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