ペーパースカイ【完結】
しかし、タクシーに乗り込んだら、ダッシュのせいではなく胸がドキドキしてきた。

間に合うかな。ううん。時間じゃなくって。

私は、ちゃんと間に合うだろうか?芳明に。

伝えたいことはたくさんあるけれど、きちんと伝わるかどうか、自信がない。

黙り込んだ私の顔を見て、

「大丈夫?」

とママが言う。私が慌てて

「えっ、大丈夫だよ!」

と答えても、ものすごく心配そうな目でジッと見つめてくる。

「ていうかさ、こっからタクシーなんてお金かかるよ?結構遠いんだから」

話を逸らすと今度はなんだか胸を張って

「恋に使うお金と、恋に砕く心に、糸目はつけちゃいけないんだよ」

と言った。なんだか、よくわからない。

わからないけれど、私はママに密かに感謝していた。

自分一人じゃ、芳明に会いにいくことを決心できなかったかも知れない。

不安とあきらめに押し潰されて、一歩も外に出れなかったかも知れない。

ありがとう。

なんて、そんな言葉、恥ずかしくて口に出せないけど。

ママが今、隣にいてくれて良かったと思う。

本当に、そう思う。

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